
次世代燃料として注目されている水素。最近ではカーボンニュートラルに向けての動きとして特に注目が集まっています。
工業分野では、特のこの1年ほどの動きが急速です。投資家を巻き込んで開発の方向性を大きく変えている企業も少なくありません。
やや報道が加熱しているので「もう水素使う時代がくる!」という認識を持っている人は意外に多いのかもしれません。
水素の利用は脱炭素の動きが今よりも大きくなる前から石油枯渇を懸念した科学者や技術者達が少しずつ可能性を切り開いていました。
経産省もロードマップの策定など力を入れていますが、現実問題としてはかなりタイトなスケジュールです。
今回は、少しでも多くの人がこの議論に参加しやすくなるように、次世代燃料として注目される水素を取り巻く現状と経緯をなるべく簡単に解説したいと思います。
目次
石油頼みの人類社会
インターネットによって情報の伝達スピードが上がり、とても便利な世の中になっている現在ですが、その仕組みを根底で支えているのは「石油」という燃料があるからです。
車や飛行機、船などを動かすためにも石油から精製されたガソリンが必要です。
日々の暮らしを支える電気は発電所で作られますが、半分以上は石油燃料を使用しています。
つまり、石油なくして人間社会は回らないのです。
命題は二酸化炭素を出さないこと
石油を燃やすと二酸化炭素が出ます。二酸化炭素が増えると、地球に与える影響が大きいと言われています。
このまま石油を使い続ける世の中が続くと、将来的に人間がとても住みにくくなるので、二酸化炭素はなるべく出すべきではないという考え方があります。
これについては予測の話なので否定意見もあります。
しかし、今は世界の国々が賛同し、二酸化炭素の排出を減らす仕組みを本格的に検討しています。
次世代燃料とは発電の材料
現在の社会を支えている最大のインフラは電気です。
電気なくして人間の経済活動は成り立ちません。そんな世の中になっているため、石油を最も使う場所は必然的に発電所となります。
石油を使わずに発電する方法は長く研究されています。
知識のある人は、石油を使わない発電方法を幾つか知っているでしょう。
具体的には、原子力発電、水力/風力発電、地熱発電などがあります。最近では太陽光発電も増えてきました。
しかし、どれもデメリットが大きく日本では火力発電のシェアを奪うまでには至っていません。
発電とはお湯を沸かすこと
発電所ではタービンを回すことで電気を生み出しています。ではどうやってタービンを回すのかというと、大半はお湯を沸かして水蒸気の力でタービンを回しています。
・火力発電:石油火力や天然ガスの火力で、お湯を沸かしてタービンを回す 。
・地熱発電:火山活動の高熱などで、お湯を沸かしてタービンを回す。
・バイオマス発電:木材などから作った有機物を燃やした火力で、お湯を沸かしてタービンを回す。
・原子力発電:核分裂反応で生じる熱で、お湯を沸かしてタービンを回す。
地熱発電はできる場所が限られ、バイオマス発電はハイコスト。
原子力発電は放射性ゴミが出るので本末転倒。
例外は自然の力で直接タービンを回す水力・風力発電。そして、半導体の作用で直接電気の流れを生み出す太陽光発電です。これらは「再生可能エネルギー」といわれています。
再生可能エネルギーは間に合わない
「じゃあ、水力・風力・太陽光発電を使えばいいじゃないか」と思うことでしょう。
事実として、こういった再生可能エネルギーを使っていこうとする活動は続けられています。
しかし、地球の気まぐれを利用する発電方法では、現在の社会が必要としている電力を全て賄えないのが現状です。
2030年に国が掲げた二酸化炭素の排出量目標をクリアするために経済活動を止めるわけにもいきません。
ここで、安定して電力を生産できる火力発電を利用するしかないという状況になってきます。
お湯を沸かす燃料として有用な水素
そこで、火力発電において「燃焼時に二酸化炭素を出さない燃料に変えられないか」と考えることになりました。
白羽の矢が立ったのが水素です。
水素は燃焼しても二酸化炭素を出さないことと、地球上で枯渇する恐れがほぼないということもあって現在ではもっとも注目されています。
水素もすぐには使えない
各方面で利用方法の開発が進められている水素ですが、問題点もあります。
水素は運びにくい
水素はガス状態で燃焼させることが望ましいですが、こういったガス燃料は運搬量を増やすために液化させることが一般的です。
しかし、水素は-253℃という超低温でなければ液化しないため、通常の液化ガス運搬の仕組みが流用できず、非常にコストがかかります。
また、水素は可燃性であるため取り扱いには注意が必要です。
この問題が、水素を広く利用する上で現在もっともネックとなっている部分です。
アンモニアがギリギリ中継ぎとして使えるかもしれない
運搬方法も幾つか候補はあります。
その中で最も有力なのがアンモニアに置き換えて運ぶ案です。
アンモニアは分子中に水素成分を含んでいるため、化学処理で水素を抽出することができます。(そして、その工程で二酸化炭素が出にくい。)
また、家畜の飼料開発に必要なものなので古くから運用方法が確立されており、水素の様に運びにくいということはありません。
さらに、アンモニアはそのまま燃焼できるため、まず燃料として使おうという動きもあります。
最後に
なるべく簡単な言葉を使って、次世代燃料として水素が注目されるまでの背景を書いてみました。
この内容をきっかけにして少しでも多くの人が水素についての議論に参加してくれることを望みます。
分かりにくい部分があれば追記していきますのでご連絡よろしくお願いします。